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日本語の最新号及びバックナンバー

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 日本・バングラデシュ交流メールマガジン(第54号・2006/3/9)  
      ―日本とバングラデシュの橋渡しのために― 
     

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本メールマガジンは、当地在留邦人の皆様及び希望者に送付しておりま
す。本メールマガジンの配信開始・変更・中止のご希望がありました 
ら、編集部までご連絡いただければ幸いです。  
         
   mail@embjp.accesstel.net        
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□ 目次 □

【1】堀口大使メッセージ「ビル崩壊事件と土地問題」

【2】最近の日本・バングラデシュ関係
[これから]

●第12回バングラデシュ・ビエンナーレ(3月5〜31日・ダッカ)
●援助の現場と日本を結ぶ開発セミナー(3月11日・ダッカ/東京/大阪
  /タンザニア)
●徳川記念財団理事長徳川恒孝氏との懇親会(3月12日・ダッカ)
●徳川記念財団理事長徳川恒孝氏プレス・クラブ講演会(3月13日・ダッカ)
●初等教育サブセクタープログラム(PEDP2)勉強会(3月16日・ダッカ)
●現地ODAタスクフォース勉強会(3月22日・ダッカ)

[これまで]
●地方行政セミナー(2月27日・ダッカ)

[お知らせ]
●2006年2月クライムマップ

【3】日本企業支援情報

●DCCI/JBCCI共催の貿易・投資セミナー報告(2月27日・ダッカ)
●アダムジー輸出加工区の開設式(3月6日・アダムジー(ダッカ郊外))
●最近のバングラデシュ経済情勢(本年3月現在)

【4】青年海外協力隊リレー連載・第13回
「バングラデシュ最強水泳軍団ネービー(海軍)を倒せ!」
(平成16年度2次隊・水泳 今村隆浩)

【5】編集後記

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【1】堀口大使メッセージ「ビル崩壊事件と土地問題」

去る2月末、ダッカ市テジガオンで改築中の6階建てビルが崩壊し、少なくと も25人が亡くなりました。ここで思い出されるのは、昨年4月にはサバールで 9階建て縫製工場が崩壊し70人の女工らが亡くなり、さらに一昨年6月には オールド・ダッカのシャンカリバザールで6階建てビルが崩壊し11名以上が亡 くなっており、いずれの場合も死者に加え多数が負傷していることです。これ らの事件の主たる原因として、建築基準法違反が当然のことながら指摘されて います。

ところが、3月4日付のデイリー・スター紙において、ダッカ大学のA・A・ カーン教授は、建物崩壊の目撃者による「まずエンジン音がして数秒で建物が 崩壊した」との証言を紹介しながら、建物崩壊の別の原因を挙げています。
すなわち、ダッカ・メトロポリスは実は地盤がしっかりしているところは半分 以下しかなく、半分以上は整地された土地、低地及び様々な深さの水路網が埋 め立てられた土地であるとしています。これらの地域は多数の水路につながっ ていて、雨期、洪水期に流れてきた土砂、シルト、粘土で埋め立てられたり、 あるいは人工的に埋め立てられたものです。

しかも埋め立てられた水路地域(以下、元水路地域)は高地から流入してきた 赤土が混ざり、本来の赤土層との区別が難しくなっている地域があり、元水路 地域は地下には水路が残っているため液状化の危険性をはらんでいます。液状 化は地震によるものだけでなく、継続的で緩慢な周囲の震動によって部分的な 「液状化ポケット」が引き起こされます。元水路地域は部分的な地下浸食の危 険があり、人工的埋立地は有機的土壌のポケットを生み、脆弱性を抱えていま す。

今回崩壊したビルは、整地と、かつてモハカリ・コルといわれた元水路地域と の境目に建てられていたものです。昨年崩壊したサバールのビルが建っていた ところも同様の状況でした。カーン教授は「首都開発公社(RAJUK)」がダッ カの地質マップを持っていないのではないかと危惧しつつ、主要建築物の建設 に当たっては地質的な検査の義務付けが重要であるとしています。

ダッカの地質マップが無い状況で新しいアパートを買う人達は、地盤状況は運 を天に委せるしかない状況におかれています。

大小無数の川が国土を縦横に流れるバングラデシュでは、毎年、特に雨期にな ると川の勢いで部落全部が流失するような土地の浸食が報じられます。その浸 食された土地はやがて下流で堆積し新しい島を形成するのですが、上流で土地 を流失した人が所有権を主張できる訳ではありません。先祖から受け継いだ り、やっとの思いで購入した土地が川の流れのため、いとも簡単に流失してし まうことは、折角買ったアパートが土地の液状化で突然崩壊してしまうかもし れないとの思いとともに、バングラデシュ人の土地に対する思いを特別なもの にしています。この思いは、はかないものに対する諦観とともに、希少なも の、移ろいやすいものへの一層の執着心ももたらしています。

先般ダッカ高等裁判所を見学した時、係争中の民事案件の約85%が土地の所有 権をめぐるものとの話を聞きました。また、裁判官不足もあって裁判の長期化 が裁判所最大の問題であるとのことでしたが、バングラデシュの抱える問題の 多くが土地問題の特殊性と関連しているように思われます。

(バックナンバー)
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/mailMagazine/index.html
(小冊子「日本とバングラデシュの橋渡しのために」)
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/pdf/merumagabook.pdf

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【2】最近の日本・バングラデシュ関係

[これから]

●第12回バングラデシュ・ビエンナーレ(3月5〜31日・ダッカ)

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、諸外国と日本の相互理解を 深めるための活動のひとつとして、各種の美術交流事業を行なっています。中 でも、ヴェネチア、サンパウロ、インド、バングラデシュの国際美術展には、 日本を代表して毎回参加しています。
バングラデシュ・ビエンナーレは、1981年に始まった現代美術の国際展で、ア ジア以外の地域も含む30以上の国・地域からの参加があります。

第12回は、「利用/誤用/再利用」をテーマに、NPO法人アーツイニシアティヴ トウキョウ[AIT/エイト]をコミッショナーにむかえ、藤浩志・照屋勇賢が出品 します。

会期 2006年3月5日(日)〜31日(金)
開会式:3月5日(日)12:05〜
会場:オスマニ・メモリアル・ホール(バングラデシュ・ダッカ市)

(バングラデシュ・ビエンナーレ関連ウェブサイト)
http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/topics/bngladesh/index.html

●援助の現場と日本を結ぶ開発セミナー(3月11日・ダッカ/東京/大阪
  /タンザニア)

3月11日(土)14時〜17時、バングラデシュ・タンザニア現地ODAタスク
フォー
ス主催による援助の現場と日本を結ぶ開発セミナー「途上国の人たちとともに
未来を創る!」が開催されます。

バングラデシュからは、
・現地ODAタスクフォースの概要(大使館・紀谷参事官)
・ダッカの都市環境を知ろうツアー♪(JICA・武士俣所員)
・水道公社の経営改善(JBIC・永井駐在員)
・ダッカのストリートチルドレン支援活動(シャプラニール・藤岡事務所長)
を発表予定です。結果は追ってご報告します。

(案内状)
http://www.jica.go.jp/event/060311_01.html
(現地ODAタスクフォース関連サイト)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/kunibetsu/taskforce.html
(バングラデシュ現地ODAタスクフォース(バングラデシュ・モデル))
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/bdmodel/index.html
(YDP Japan Network)
http://www.ydpjapan.net/

●徳川記念財団理事長徳川恒孝氏との懇親会(3月12日・ダッカ)

3月12日(日)午後6時より、徳川記念財団理事長徳川恒孝(つねなり)氏
(徳川家第18代当主)との懇親会がダッカ日本人会、ダッカ商工会、当館の共
催で開催されます。

徳川氏は徳川家第18代宗家として、徳川時代の歴史に造詣が深いばかりでな く、日本郵船北米支社取締役会長、本社副社長等を歴任し、国際ビジネスの現 場経験も豊富との由で、当地訪問の前にはカラチを訪れ、ビジネススクールで の講演及び日本人関係者やパキスタンの商工会関係者等を対象とした講演会を 実施する予定です。参加申込は締め切らせていただきましたが、お問合せ等あ りましたら大使館広報文化班(Tel:881-0087、担当:飴谷)まで。

(徳川記念財団HP)
http://www.tokugawa.ne.jp/

●徳川記念財団理事長徳川恒孝氏プレスクラブ講演会(3月13日・ダッカ)

3月13日(月)午後5時より、徳川記念財団理事長徳川恒孝(つねなり)氏の 講演会が日バ商工会議所(JBCCI)、JETRO、当館の共催でナショナル・プレス ・クラブで開催されます。

講演テーマは、「Sources of Success for Japan's Modernization -A Historical and Caltural Perspective-」で、日本では近代化にとって重要な 4つの要素「高い教育水準」「勤勉な国民」「高い社会道徳」「発達した市場 経済」が江戸時代にすでに備わっていたため、明治以降の急速な近代化を遂げ ることができた、バングラデシュでは如何に応用できるか、といった内容とな る予定です。お問合せは大使館上記広報文化班まで。

●初等教育サブセクタープログラム(PEDP2)勉強会(3月16日・ダッカ)

3月16日(木)17:00から18:30、JICA会議室において、「PEDP2(SWAPs:初等 教育サブセクタープログラム)の進捗」と題した勉強会が開催され、長岡康雅 JICA長期専門家・初等教育アドバイザーが発表される予定です。

当日は、PEDP2プログラム全体とJICA技術協力の調和化アラインメントについ て、長岡専門家から「わかりやすく」進捗状況と課題について、発表いただき ます。

なお、現在、隊員有志でJOCV活動研究会(仮)が企画され、その第一弾として 理数科教師分会が立ち上がりつつあります。当日は、理数科分会メンバーから 「現場からの課題分析・提言」も織り交ぜながら、意見交換を行いたいと思い ます。

参加申込・お問合せは、JICAバングラデシュ事務所(担当:小林)まで。
Tel: 989-1897、Fax: 989-1689
UDAY TOWER (7th floor), 57/57A Glushan Avenue, Dhaka
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/bdmodel/060316flyer.html

●現地ODAタスクフォース勉強会(3月22日・ダッカ)

3月22日(水)17:00から19:00、在バングラデシュ日本大使館3階会議室にお いて第32回開発援助勉強会「現地ODAタスクフォースは何を目指すべきか−バ ングラデシュ発で実行し提案しよう−」を開催します。これまで開発援助勉強 会の司会進行役を務めてきた当館の紀谷参事官が、離任するに際して、バング ラデシュの開発問題への取り組みや現地機能強化のあり方について冒頭問題提 起を行います。そして、皆さまと一緒に、今後の現地ODAタスクフォースの方 向性について考えていきたいと考えています。

日時:2006年3月22日(水)17:00〜19:00
場所:日本大使館3階会議室
(Plot No.5 & 7, Dutabash Road, Baridhara, Dhaka)
議題:「ODAタスクフォースは何を目指すべきか
     −バングラデシュ発で実行し提案しよう−」
発表者:在バングラデシュ日本大使館参事官・紀谷昌彦
連絡先:出席をご希望の方は、前日までに当館吉田までご連絡ください。
akemi.yoshida@mofa.go.jp Tel 02-8810087 Fax 02-8826737

[これまで]

●地方行政セミナー(2月27日・ダッカ)

2月27日、地方インフラ局(LGED)とJICAの共催で地方行政に関するセミナー 「地方開発調整プログラムの経験共有」が行われました。開会式には、イスラ ム地方自治局次官、堀口大使他が出席し、JICAやLGED等の専門家が発表を行い
ました。

堀口大使は開会式場、以下のスピーチを行いました。
http://www.bd.emb-japan.go.jp/en/embassy/speeches/sp_ldcp270206.html

[お知らせ]

●2006年2月クライムマップ

2006年2月中におけるダッカ市内の凶悪事件発生状況は、銃器を用いた事件が 目立ちました。グルシャンサークル1近郊の南部バッダ地域では、夕刻に地元 犯罪組織間の抗争を原因とした銃撃事件が発生しました。当地においては銃器 を用いた犯罪が頻繁に発生していますので、クライムマップを参考に銃器犯罪 が多発している地域には努めて近寄らないようにして下さい。

また、本年1月、午前中に邦人旅行者がリキシャで移動していたところ、黒タ クシーが接近し、助手席の男が邦人女性の鞄を強引に掴み取ろうと試みたた め、リキシャが転倒し、邦人旅行者が大怪我を負ったひったくり未遂事件が発 生しました。過去にも同様の事件が発生していますので、在留邦人の皆様はリ キシャに乗車している場合であっても気を抜くことなく常に周囲を警戒し、 ひったくり等の被害の未然防止に努めて下さい。

本年2月のクライムマップ(ダッカ市犯罪発生状況)を、次のウェブサイトに
掲載しました。
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/pdf/map_feb2006.pdf

注1:クライムマップは、新聞各紙に掲載された凶悪事件のみを地図上に示し ています。現実的には、さらに多くの犯罪が発生していることが推測されま す。

注2:新聞記事に基づき、可能な限り事件が発生した場所に印を記載しており ますが、詳細な場所が判然としない場合、枠内の地区名の下側に印を記載して おります。

注3:治安当局の捜査活動に伴う銃撃事案については、対象外としています。

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【3】日本企業支援情報

●DCCI/JBCCI共催の貿易・投資セミナー報告(2月27日・ダッカ)

2月27日(月)ダッカ商工会議所会議場において、ダッカ商工会議所(DCCI)及 び日本・バングラデシュ商工会議所(JBCCI)の共催で「貿易・投資促進セミ ナー:日本バングラデシュ・イニシアティブ」が開催されました。堀口大使、 チョウドリー商業大臣、ホセイン・バングラデシュ商工会議所連盟(FBCCI) 他が参加しました。

JBCCIから、バングラデシュ政府に対して25項目、日本政府に対して5項目の 要望が提出されました。バングラデシュ政府への要望には、首都圏交通マス タープランを始めとして、手続きの明確化、政策の一貫性、税関手続きの電子 化、民間との対話、L/C決済の円滑化、女性の夜間労働の許可などがありまし た。日本政府への要望は、ダッカ市交通マスタープラン策定、税関手続き電子 化導入、高度技術訓練センター設立、港湾設備の拡充、発電所の増設に関する 支援を求めるものでした。

堀口大使は、南アジアが再び注目を集めるようになってきた機運をバングラデ シュ側が捉えること、日本からの投資を促進するためにもJBCCIやダッカ日本 商工会のような民間企業団体からの声をバングラデシュ政府が耳を傾けること の重要性について述べました。更に、現在改定作業中の国別援助計画案では民 間セクター開発は重点セクターのひとつとなっており、ビジネス阻害要因解消 を政府に働きかけることによる貿易易・投資環境の改善、経済インフラ、民間 企業に対する人材育成の三つの柱に沿って支援を行うこと、また両国の民間セ クターが主導的役割を果たすよう期待を述べました。

堀口大使のスピーチ「バングラデシュ貿易・投資促進に対する日本の貢献」
を、次のウェブサイトに掲載しました。
http://www.bd.emb-japan.go.jp/en/embassy/speeches/sp_dccijbcci270206.html

(本セミナーに関する情報)
http://www.jetro.go.jp/bangladesh/eng/jbcci/index.html

(日本・バングラデシュ商工会議所(JBCCI))
http://www.jetro.go.jp/bangladesh/eng/jbcci/index.html

(ダッカ商工会議所(DCCI))
http://www.dhakachamber.com/

●アダムジー輸出加工区の開設式(3月6日・アダムジー(ダッカ郊外))

先般、ダッカ郊外のナラヤンゴンジ県旧国営ジュート工場跡地にアダムジー輸 出加工区(EPZ)が完成し、3月6日、ジア首相臨席の下開設式が行われ、堀口 大
使他が出席しました。

ジア首相は、産業化における海外直接投資の重要な役割に言及しつつ、経済成 長のためには勤勉さと弛みない努力に加え、頻発するストライキ等の投資環境 阻害要因の解決が重要である旨述べました。

アダムジー工業団地はダッカ工業団地に続くダッカ周辺第二の輸出加工区で、 ダッカ市中心部から15キロ、ジア国際空港から40キロに立地し、総面積約295 エーカー、約200区画の工場用地を有します。バングラデシュ輸出加工区庁 (BEPZA)によれば、現在2社が既に操業を開始、4社が工場建設中で、その 立地の良さから現在多数の問い合わせがあるようです。

(バングラデシュ輸出加工区庁)
http://www.epzbangladesh.org.bd

●最近のバングラデシュ経済情勢(本年3月現在)

経済資料を改訂しましたので、ご関心がありましたらご覧ください。
http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/business/pdf/keizai0603.pdf

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【4】青年海外協力隊リレー連載・第13回

「バングラデシュ最強水泳軍団ネービー(海軍)を倒せ!」
(平成16年度2次隊・水泳 今村隆浩)

バングラデシュ国立スポーツ学院(以下BKSP)は、各スポーツのナショナルチー ム入りを目指すジュニア選手(8〜20歳)養成機関であり、私は2005年1月か ら、このBKSPで水泳指導を行っている。

“ナショナルチーム入りを目指す”と言うと聞こえは良いが、日本の名門学校 のように、鳴り物入りの大物ルーキーが入学してくるといったケースはない! 毎年行われる入学テストでは、妥協せずには合格者を見出せない程のレベルで ある。どうか先進国の名門スポーツ学校の狭き門を想像している方は、そのよ うな先入観を捨ててから読んで頂きたい。

私自身も赴任当初は、この“ナショナルチーム入りを目指す”という言葉に勝 手なイメージをふくらませ、「国内No.1スイマーを育て上げる!」という大き な目標を胸に抱いた。確かにBKSPの水泳選手の泳ぎを見ると、極一部の選手で はあるが光るものを感じた。バングラの水泳レベルを低く捉えていた事もあ り、少々面を喰らいながらも「こいつ等ならイケる!!」と、ひそかに思いを 馳せた。

その後、私の担当する選手が決まった。カウンターパート曰く「君の担当選手 は、BKSPのこれからのメインスイマーだ!」。面子を見ると、“極一部の光る ものを感じた選手”は私のチームには1人もいなかった。優秀な選手は全て中 国人コーチが担当するとの事だ。

さらに後からわかった事だが、どうやら私のチームは年齢が高いのにタイムの 遅い選手や、ここ数年タイムが伸びていない選手の集まりだった。若い有望な 選手はカウンターパートのチームに集まっていた。早い話が、2軍担当コーチ に就任したのである。しかし、この事により俄然やる気が出てきた。選手の潜 在能力をいかに引き出すかがコーチの仕事である。

ちなみにバングラ男子の水泳最強チームは海軍である。その強さは圧倒的で、 2004年のバングラ水泳選手権では全19種目中17種目で海軍の選手が優勝してい る。次に強いのは陸軍で優勝は、海軍にさらわれているものの14種目で準優勝 している。3位には海・陸軍の2番手選手が入賞する事が多い。

BKSPはバングラ国内においても決して強いチームではない。その理由としては BKSPや各県にある水泳連盟に所属する速いジュニア選手は、学校を卒業しなく ても大きくなった段階(18歳くらい)で、海軍や陸軍に引っ張られて就職して そこで練習をする。仕事などしないで練習をする。3位までに入賞したら賞金 がもらえるため体力の続く限り引退はしない。そのためBKSPの選手が海軍・陸 軍に勝つのは高校生の野球チームが、プロ野球チームに勝つくらい難しい…と は言い過ぎかもしれないが、簡単に言うとそういう事である。ましてや2軍選 手が優勝するなど至難の業である事は想像に難くない。

私の担当選手は、スイマーとしての実力はさておき、個性派のツワモノ揃いで ある。〜速くなりたい願望だけは強いが、サボりにかけては天才的なロフィッ ク。〜何を考えているのか妖しげにあさっての方向を見つめ、よく意味不明な 行動をとる、謎の少年スジョン(15歳なのに小学6年生)。〜女の子みたいな 走り方をする運動音痴で臆病者のシャゴールなどなど…合計10名。

当初選手達はよく練習を休もうとしていた。練習開始時は休む為の言い訳を言 いに、私の前に選手の列ができる事がよくあった。列の先頭は決まってロ フィックだ。「2月は気温が寒いからプールで泳いだら死んでしまう」、「た くさん練習し過ぎて肩が痛い」、「練習したいが医者に診てもらったら休むよ うに言われた」、「昨日は練習がんばったから今日はクリケットがしたい」な ど、カチンと来る。

しかし、こんな事には耳を貸さず練習はやらせる。休むかどうかは私が選手の 様子を見て判断する。医者の言う事など全く信用しない。気が狂っていると思 われようが、鬼と呼ばれようが、人殺しと呼ばれようが、選手に嫌われようが そんな事は痛くも痒くもない。お構いなしにやらせる。

練習に現れず休んだ場合は、休日である金曜日に休んだ日の練習をやらせる。 選手の意識を変えるには、始めが肝心である。私とロフィックとのやり取りを 見ていた選手達は、あきらめて嫌々練習の準備を始める始末。しかし、このよ うな事も1〜2ヶ月徹底すれば、選手もだんだんあきらめてくる。約1名のサ ボり屋を除いては…。

初めはコーチが恐いからという不純な動機だが、与えられた練習を最後までや りぬく事が当然になってくる。練習量も1回3000mくらいで弱音を吐いていた が、徐々に増やして7000mくらいこなせるようになっていった。
6ヶ月経った時、中国人コーチが2ヶ月ほど帰国する事になったので、1軍の 選手も一緒に教える事になった。その時、頭角を現し始めたのはスジョンと シャゴールだ。スジョンとシャゴールはこれまで1度も休まず練習をこなして きた選手だ。スジョンは風邪をひかない体質だと言っていた。(なるほど納得 !)。シャゴールは何度も練習を休もうと思ったらしいが、コーチに気後れし て言い出せなかったらしい。

2人はBKSPの1軍選手相手に、まったく引けを取らないどころか、1軍選手で もこなせない練習量をこなせるようになっていた。去年までは短距離選手用の トレーニングしかやっておらず、くすぶっていたようだが、おもいきって中・ 長距離選手に転向させたら、メキメキと力を付けてきた。

9ヶ月が経ち、バングラ水泳選手権をむかえた。私のバングラでの初陣だ。第 1日目はスジョンがメインだ。種目は200mバタフライ、競泳では一番ハード な種目で、スジョンのように打たれ強いタフな選手でなければ泳ぎ切れない。 選手が入場しスタート台の前に並ぶと20代の大男の中、ひときわスジョンが小 さく見える。しかし面構えは負けていない。スジョンも立派な老け…いや大人 びた顔をしている。スピードはないが、後半の“まくり”がスジョンの最大の 武器だ。150mを5位で通過しラストの“まくり”で2人をかわし見事に3位 入賞を果たした。しかし、この種目もやはり海軍優勝、陸軍2位だった。この 2強に割って入れなかったのが悔しかった。

そして第2日目は、ロフィックがメインだ。種目は50mバタフライ。彼は6ヶ 月経った時くらいから、ようやく積極的に練習に取り組むようになっていた。 きつい練習にはついてこれない腰抜けだが、スジョンやシャゴールと違って短 距離向きバリバリのスプリンターで天性のバネを持っている。この日のために 伝授した“必殺潜水ドルフィンキック”が成功するかが鍵だ。

レースはスタートもドンピシャに決まり、必殺技も決まり、水の上を滑るよう な会心の泳ぎができ、予選では負けていた陸軍選手の追撃をタッチの差で抑え 見事2位に入賞した。陸軍の選手に勝ち2強に割って入った事は快挙である。 しかし、やはり優勝は海軍で群を抜いていた。

第3日目、ここまで男子は海軍が全ての種目で全く危なげなく圧勝で優勝して いる。この日のメインはシャゴールだが、この大会の1ヶ月前まで一緒に教え たBKSPの1軍選手にもがんばってほしい。

種目は1500m自由形。シャゴールは練習に強く、本番に弱いタイプだ。練習で はBKSPの1軍選手(昨年の1500m自由形の準優勝選手)より良いタイムで何回で も反復してくるが、本番のレースを想定したタイム測定では、その1軍選手に 大差で負ける。この大会の1ヶ月前のタイム測定でも完膚なきまでに負けた。 敗因は消極的にスピードを抑えすぎるチキンハートが原因だった。そして、こ の本番に弱いのも実力である。負ければただの言い訳にしかならない。

レースはシャゴールが後ろから追いかける展開が予想される。ラスト100mの 時点で先頭から3m以上離れていたら勝ち目はない。レースは海軍・陸軍・ BKSP1軍選手の3選手の混戦を、誰が制するかという点に注目が集まった。

レースが始まり、注目の3選手はプール中央の4・5・6コースで泳ぐ。シャ ゴールはもちろんノーマークである。注目度の低い選手ほど端のコースで泳が される。レースは、4選手が抜け出し横一線になり、ゆっくりしたペースで進 行しながら、中盤に差し掛かった。中央の3選手に大外からはシャゴールも先 頭集団についていっている。

1000m通過、終盤に差し掛かり、その時点での通過タイムを計ってみると、彼 のベストタイムを大幅に上回っていた。ゆっくりしたペースではなく、シャ ゴールの大きなストロークがゆっくり泳いでいるように見えていたようだ。そ の証拠に海・陸軍の2人が遅れ始めた。

終盤からはBKSPの2人の一騎打ちとなった。ペースを上げる1軍選手にシャ ゴールも必死についてゆく。2人の差は2m、3m、4mと徐々に広がった。 しかし、シャゴールのストロークに乱れはない。そのままラスト100mにさし かかり、先頭から遅れること2秒(約3m差)後にシャゴールが通過した。

両者最後の力を振り絞りスピードを上げる。観客は空軍・陸軍・BKSP関係なく 2人の死闘に大声援を送っている。ラスト50mでシャゴールが先頭に1m差ま で詰め寄った。そして更にキックの回転を上げギアチェンジ、並びかけたかと 思うと一気に抜き去った。見事な大逆転でシャゴールが優勝した。昨年の優勝 タイムより30秒以上速い好タイムだ。観客はBKSPの選手が1・2フィニッシュ で海・陸軍をねじ伏せた事で、度肝を抜かれていた。

こうして2005年バングラ水泳選手権が終わった。終わってみれば男子合計19種 目中16種目で海軍選手が優勝。14種目で陸軍選手が準優勝。1年前とあまり変 わっていないが、BKSPには大きな収穫があったと言えるだろう。

2006年になり新しいシーズンがスタートした。ロフィックは、大会後にナショ ナルチーム入りを果たした。そして、そのまま陸軍への就職が内定したらし い。もう私の元で練習する事はないだろう。シャゴールもナショナルチーム入 りしたが、中学3年に進級したばかりで、学業優先を本人が希望した為、現在 BKSPに戻り私のチームで練習をしている。スジョンも引き続き私のチームで練 習しているが、期末テストで落第し、小学6年生をもう1年間やり直す羽目に なった事も付け加えておこう。

チームの新しい目標は、海軍にいる2人のバングラ水泳界無敵の選手である ルーベル(7種目優勝)と、ジュエル(6種目優勝)。この2人に勝つ事だ。1年 前は選手の意識の低さに翻弄され「練習をやらせる」という、低次元の事に四 苦八苦していたが、今は違う。「打倒ルーベル&ジュエル!!」という、選手 ・コーチが、共通の目標に向かって足並み揃えて本気で取組み始めている。

チームの雰囲気が切磋琢磨して活気が出てきている。選手の目もギラギラして いる。もう、練習をやらされている状態は終わり、本当の意味での“選手強 化”に専念できそうだ。これからが、本当の闘いであり、コーチとしての手腕 が試される時だろう。道は険しいが、次のバングラ水泳選手権でBKSPの選手 が、このルーベルとジュエル2人の選手に勝つ瞬間を、想像するだけでワクワ
クして夜も眠れない今日この頃だ。

(青年海外協力隊)
http://www.jica.go.jp/bangladesh/activities/05.html
http://www.jica.go.jp/activities/jocv/

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【5】編集後記

国際交流基金の文化協力というスキームで、当地の劇団に日本の米百俵の演劇 を指導するプロジェクトが始まり、今日から10日間、国立芸術院(シルポコラ ・アカデミー)で米百俵のワークショップが行われています。このために日本 から、すわらじ劇園代表の木村進次さんが当地を訪れています。この方は以 前、ホンジュラスでの米百俵公演の際にも教えられたそうで、あの純日本的劇 をどのように外国人に伝えるのか私自身大変興味があります。また、木村さん は今年で73歳という御年ながら、米百俵を伝えるためにバングラデシュまでお 越しいただきましたので、是非成果が挙げられるよう支援していきたいです。

(在バングラデシュ日本大使館総務・広報文化班 飴谷貴信)

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