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バングラデシュ経済
最近の動向及び今後の見通し
2005 年 8 月
在バングラデシュ日本大使館
バングラデシュの主要経済指標
主要経済指標
|
2003 年度
|
2004 年度
|
2005 年度
|
実質 GDP ( 10 億タカ)
|
2,371
|
2,502
|
2,655
|
名目 GDP ( 10 億タカ)
|
3,006
|
3,326
|
3,685
|
一人当たり
GDP (ドル)
|
389
|
421
|
445
|
消費者物価上昇率 (%)
|
4.4
|
5.8
|
6.5
|
貿易収支(百万ドル)
|
-2,215
|
-2,319
|
-2,960
|
輸出(百万ドル) FOB
|
6,492
|
7,521
|
8,573
|
輸入(百万ドル) FOB
|
8,707
|
9,840
|
11,870
|
経常収支(百万ドル)
|
176
|
176
|
-1,077
|
対日貿易収支(百万ドル)
|
-497
|
-433
|
-
|
対日輸出(百万ドル) FOB
|
108
|
118
|
-
|
対日輸入(百万ドル) FOB
|
605
|
551
|
-
|
対内直接投資(百万ドル)
|
462
|
574
|
-
|
日本からの直接投資(百万ドル)
|
106
|
-
|
-
|
対外債務残高(百万ドル)
|
16,519
|
16,761
|
17,802
|
為替レート(対ドル年・平均)
|
57.9
|
58.94
|
65.47
|
金・外貨準備高(百万ドル)
|
2,470
|
2,705
|
3,023
|
主要政策金利(現行、年率 %)
|
6.0
|
5.0
|
5.0
|
短期金利(年・平均、年率 %)
|
6.3
|
5.7
|
-
|
長期金利(年・平均、年率 %)
|
12.8
|
7.3
|
-
|
(出典)
Bangladesh Bank Annual Report 2003-2004 ( バングラデシュ銀行 ) 、バングラデシュ銀行ウェブサイト ( http://www.bangladesh-bank.org/)、バングラデシュ銀行エコノミストからの聴取り、 Bangladesh Economic Review 2005 (財務省)、 IMF 作成資料、 JETRO ウェブサイト ( http://www.jetro.go.jp/bangladesh/eng/home.html)
(注) (a)
2005 年度の為替レートは 2005 年 8
月 7 日の値
(b) 2005 年度の金・外貨準備高は 2005 年 6 月の値
(c) 上記以外の 2005 年度指標は全て暫定値または推定値
1. 経済成長
2000 年度以降のバングラデシュ経済は、農業分野の堅調な伸び、縫製業及びサービス分野の拡大、海外送金に支えられた国内需要等の要因により、成長率は平均 5.0% を維持しており、 1970 年代平均の 2.8% 、 1980 年代平均の 3.7% 、 1990 年代平均の 4.8% と比べ改善に向かっている。
2004 年度( 2003 年7月〜 2004 年 6 月)の GDP 経済成長率は、農業分野(穀物部門)の不調にも拘らず工業分野の輸出向け製造部門、建設部門、公共関連部門等、及びサービス分野の好調な成長を受けて 6.3% となり、前年度の 5.3% から上昇した。
2005 年度に関しては、 2004 年 7 月− 9 月の洪水の影響 [1]により農業分野(対前年度比 0.3 %の伸び)が不振となったが、工業分野に関しては建設・公共関連部門の成長に下支えられた製造部門の好調を受けて対前年度比 8.6% 成長となった。加えて GDP の約半分を占めるサービス部門が好調に伸びた(対前年度比 6.1% 増)結果、 GDP 成長率 5.4% (暫定値)となった。
実質 GDP 成長率の推移
年度
|
成長率
|
1970 年代
|
2.8
|
1980 年代
|
3.7
|
1990 年代
|
4.8
|
1996
|
4.6
|
1997
|
5.4
|
1998
|
5.2
|
1999
|
4.9
|
2000
|
5.9
|
2001
|
5.3
|
2002
|
4.4
|
2003
|
5.3
|
2004
|
6.3
|
2005
|
5.4
|
(出典)バングラデシュ銀行、 財務省
|
(注)
2005 年度は暫定値
|
|
バングラデシュ政府が策定した「貧困削減戦略文書( PRSP )案」の中期マクロ経済フレームワークでは、今後3年間の
GDP 成長率に関し、 2005 年度には
5.5 %、 2006 年度には 6.0%
、 2007 年度 6.5 %との目標が掲げられているが、バングラデシュ経済に関する中期的な懸念要素として、原油国際価格の高騰、 MFA (多国間繊維取極め)失効が縫製品輸出に与える影響、及び
2007 年初頭の総選挙に向けての政情の不安定化の3つが指摘されている。

|
2.財政と金融
バングラデシュの財政は慢性的な赤字となっており( 1990 年代以降の財政赤字の対 GDP 比は平均 4.6% )、これを外国援助と国内銀行借入等で補填する構造となっている。これは、主に政府の徴税能力及び歳入基盤の脆弱性、また非効率な国有企業に対する財政による赤字補填に起因している。
歳入に関しては、4,572億タカと前年度予算比16.6%増加[2] を見込んでいるが、対GDP比率は10.8%(2005年度暫定値)となっており、近隣諸国と比べ著しく低いレベルとなっている。政府は税収目標を2008年度までに対GDP比12%に増加と野心的なレベルに設定し、歳入改革委員会の提言に基づいたCentral
Intelligence Unitの設置、VAT Large Taxpayer’s Unit (LTU)の拡大など歳入強化のための様々な改革を講じているが、改革には遅れが見られ目標達成には到っていない。課税ベースの拡大、免税措置の縮小、税制システムの近代化(特に歳入局の運営強化)、税徴収の透明化、税務オンブスマン導入他の更なる改革の実施が望まれている。
バングラデシュの国有企業に関しては、採算性に欠ける価格政策及び不効率な経営等が要因となり、電力、ガス、運輸等の40を超える企業が経営赤字(2004年度の赤字は全体で82億ドルタカ)となっている。政府は民営化委員会を設置し、国有企業の民営化に向けて取り組んでおり、アダムジー・ジュート工場及びチッタゴン製鉄工場の閉鎖をはじめ、製造業を中心に部分的には進展している。国有商業銀行の改革は、民営化に向けてルパリ銀行の株式売却準備、アグラニ銀行、ジョノタ銀行及びソナリ銀行及びのマネジメント契約の実施等が進められている。
項目 / 年度
|
2001
|
2002
|
2003
|
2004
|
2005
|
2006a
|
歳入
|
241.7
|
276.7
|
311.2
|
354.0
|
392.0
|
457.2
|
税収入
|
194.9
|
219.3
|
249.5
|
283.0
|
319.5
|
373.1
|
税外収入
|
46.8
|
57.3
|
61.7
|
71.0
|
72.5
|
84.1
|
歳出
|
419.9
|
395.0
|
439.0
|
493.6
|
556.3
|
643.8
|
( 一般 b 歳出 )
|
206.6
|
226.9
|
253.1
|
287.8
|
346.6
|
388.7
|
( 開発歳出 )
|
182.0
|
160.0
|
171.0
|
190.0
|
205.0
|
245.0
|
財政赤字 c
|
-178.2
|
-118.3
|
-127.8
|
-139.6
|
-164.3
|
-186.6
|
外国借入
|
83.7
|
78.6
|
74.3
|
84.2
|
89.0
|
100.5
|
外国返済
|
-23.8
|
-25.5
|
-28.9
|
-30.9
|
-27.1
|
-30.3
|
外国援助(無償)
|
29.3
|
34.8
|
24.5
|
26.6
|
26.4
|
33.1
|
国内借入
|
89.0
|
55.9
|
57.9
|
59.8
|
76.0
|
83.4
|
( 銀行借入 )
|
37.6
|
16.8
|
15.0
|
15.0
|
36.0
|
36.4
|
( 銀行外借入 )
|
51.7
|
39.0
|
42.9
|
44.7
|
40.0
|
47.0
|
出典:
Annual Budget 2005-06 (財務省)、 Bangladesh
Economic Review 2005 (財務省)
|
注: (a) 当初予算
|
(b) 一般歳出は、
Non-Developmental Expenditure 及び
Developmental Expenditure の Programmes Financed from Non-Development Budget から構成
|
(c) 無償を除く
|
予算は主に一般予算と開発予算により構成され、 2006 年度はそれぞれ 3,887 億タカ、 2,450 億タカとなり、全体として 6,438 億タカの対前年補正比 15.7% 増の拡張型予算となっている。 PRSP の中期マクロ・フレームワークの下で初めて編成された今年度予算は、予算全体の 54 %が貧困削減関連事業に充てられ、配分が多い分野は、教育・技術分野( 15.0% )、運輸・通信( 10.3% )、地方行政・農村開発( 9.9% )、農業( 7.3 %)、保健( 6.6% )となっている。
2006 年度の開発予算は、 2,450 億タカ(内 48.4% が外国からの援助)と前年度比 19.5% の大幅な増加となった。過去の開発予算の執行については遅延が見られ、行政文書及び承認プロセスの簡略化等を通じた質の高い支出管理・運営が課題となっている。政府は、 PRSP で掲げられた優先事項に応じた各省庁による計画立案・予算編成・執行を目的として、 3-5 年の複数年において予算を政策目標・優先分野に柔軟に配分することを狙いとした中期予算枠組み( Medium-Term Budgetary Framework: MTBF )を今年度より4省に部分的に導入した。来年度は 11 省、更に 2008 年度からは全省に対して導入を行う予定。
年度
|
2000 年度
|
2001 年度
|
2002 年度
|
2003 年度
|
2004 年度
|
2005 年度
|
M2 伸び率
|
18.6
|
16.6
|
13.1
|
15.6
|
13.8
|
14.2
|
インフレ率
(CPI)
|
2.8
|
1.9
|
2.8
|
4.4
|
5.8
|
6.5
|
( 出典 ) Bangladesh
Economic Review 2005 ( 財務省 ) 、 Bangladesh Bank Annual Report 2003-2004 ( バングラデシュ銀行 ) 、 IMF 作成資料
|
(注)
2005 年度は IMF 推定値
|
2004 年度のマネーサプライ (M2) の伸び率は、 13.8% と 2003 年度より落ち込んだが、 2005 年度は 14 %台に回復する見込み。インフレ率は、 2002 年度以降上昇が続いている。 2005 年度は、 2004 年 7-9 月の洪水による穀物価格の上昇及び原油の国際価格の高騰
[3]を受けて 10 月には 7.9% を記録し、 12 月には一旦 5.5% に収まったものの 2005 年 3 月には 6.7% 、更に同年 5 月には 6.9% と上昇した。 2005 年 5 月に 153 万人の公務員を対象とした給与引き上げを伴う公務員給与改定の決定を受けて今後民間セクターによる給与調整も予想され、更なるインフレ率上昇が懸念されている
[4]。
為替相場は、 2003
年 5 月末の変動為替相場制移行後 1 年程は暫く為替レート 1 ドル= 58 タカ前後で安定していたが、原油、肥料及び通信他の資本財の輸入決済の増加に伴い 2004 年 12 月に1ドル= 60.3 タカ、更に 2005 年 2 月には 1 ドル=
63.2 タカ、同年 6 月は1ドル=
65.1 タカのドル高タカ安に転じている。
3 .国際収支
バングラデシュの慢性的な貿易赤字は、ジュート及び茶等の伝統的な輸出品目が安価であることに加え、全輸出の 4 分の 3 を占める縫製品の原材料の殆どを輸入に依存する貿易構造に起因している。
2005 年度の輸出は、縫製品の他、冷凍食品、ジュート製品、化学薬品等の輸出増加に支えられ対前年度比 14.0% 増の 85.7 億ドルとなった一方で、食料、肥料及び縫製品原料等の輸入増加に加え、原油・石油製品の価格高騰の影響を受けた結果、貿易収支は 32.9. 億ドルと例年と比べ赤字が大幅に拡大している。
全輸出の 75 %を占める縫製業に関しては、 2004 年末に失効した MFA (多国間繊維取極め)に基づく数量制限が撤廃されたことにより、これまで享受してきた欧米市場での利益が失われることが懸念されていたが、 2005 年度の実績では、布帛縫製品は 1.7% 、ニット製品は 31.0% の伸びとなった。 EU 諸国より付与された SAARC 諸国累計原産地規則による関税免除措置に続き、米国とも
GSP (一般特恵関税制度)体制に基づく輸入関税免除処置を求めて交渉が行われている。かかる当面の対外的課題に加え、 インフラ整備、リードタイムの短縮等を含むビジネス環境全般の抜本的な改革を通じた競争力の確保が喫緊の課題となっている。
年度
|
2000 年度
|
2001 年度
|
2002 年度
|
2003 年度
|
2004 年度
|
2005 年度
|
貿易収支
|
-18.7
|
-20.1
|
-17.7
|
-22.2
|
-23.2
|
-33.0
|
経常収支
|
-4.2
|
-10.9
|
1.57
|
1.76
|
1.76
|
-10.8
|
海外送金
|
19.5
|
18.8
|
25.0
|
30.6
|
33.7
|
31.8
|
外貨準備高
|
16.0
|
13.1
|
15.8
|
24.7
|
27.1
|
30.3
|
( 出典)
Annual Report 2003/04 (バングラデシュ銀行)、バングラデシュ銀行ウェブサイト( http://www.bangladesh-bank.org/)、
バングラデシュ銀行エコノミストからの聴取り、 IMF作成資料
(注) (a)
2005 年度の貿易収支は暫定値
(b) 2005 年度の経常収支は IMF 推定値
(c) 2005 年度の海外送金額は 2004 年 7 月〜 2005 年 4 月までの実績(暫定値)
(d) 2005 年の外貨準備高は 2005 年 5 月時点の値
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近年、海外労働者送金額は継続して増加しており、 2004 年度は 33 億ドル(対前年度比 10.1% 増加)、 2005 年度は 38 億ドル(暫定値)となっている。 IMF の予想によれば、かかる増加の傾向はしばらく続き、 2006 度は 40 億ドル、 2007 年度には 45 億ドル、 2009 年度には 48 億ドルを越えるとしている。
4.国際経済関係
南アジア圏内の経済協定の動向としては、 2004 年 1 月の
SAARC 首脳会議において他の加盟国と共に SAFTA (南アジア自由貿易協定)の署名を行った。 2006 年1月の発効を目指し、原産地規則、センシティブ・リスト 等の
FTA 実施に関する協議が加盟国間の専門家委員会を通じて進められている。一方、東方諸国との貿易拡大に関する動きとしては、 2004 年 2 月の第 6 回 BIMSTEC [5]閣僚会議において、輸入税引下げで受ける損失補償に関する条項の挿入を主張し、 FTA フレームワーク協定の調印を見送ったものの、同年 6 月に参加表明をするに至った。
投資庁 (BOI) によると、海外直接投資 (FDI) 受入は、 2002 年は 3 億 28 百万ドル、 2003 年は 4 億
31 百ドルであった。現在、インドのタタ・グループの 25 億ドルの投資受入について交渉の最終段階にある他、近年、仏、英、中国、台湾、マレーシア他の各国企業がバングラデシュへの投資に関心を示して現地視察調査に訪れている。報道によれば、今後、大幅な投資増加が見込まれる主力セクターは、通信、電力、化学肥料、鉄鋼、通信、繊維、アグロビジネスとされている。
JETRO の「アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較調査」によると、バングラデシュは他国と比べ労働力、オフィス賃借料、電気・水道等の公共料金において優位があり、また、近年 Work Permit (外国人就業許可証)にかかる行政窓口の一本化、
Visa on Arrival (空港到着時発行ビザ)の発給等の手続きが改善されつつあり、他国との相対的な比較において投資競争力を増していると評価されている。但し、コスト高と指摘されたインターネット・サービス料金やコンテナ代に加え、法人税、政府認可に要する時間、政権交替に伴う政策一貫性の欠如等については早急なる改善が望まれている。
以上
[1]アジア開発銀行及び世界銀行の共同調査によれば、バングラデシュの国土の 38% が洪水災害を受け、この被災推定額は約 22 億ドル(対 GDP3.9% )とされている。
[2]税収は 3,731 億タカ(前年度比 16.8% 増)、税外収は 841 億タカ( 16.0% 増)を見込んでいる。税収の内、付加価値税は前年度比 19.5% 、輸入税は 13.8% 、所得税は 19.0% の増加としている。
[3]国営企業の赤字削減を目的に、 2004 年 12 月及び 2005 年 5 月に原油製品の価格の引き上げ(国際価格上昇に応じた調整)が行われた。
[4]公務員給与の引き上げが要因となるインフレの上昇に関する政府の見解によれば、過去 5 回の改定では公務員給与改定が引き金となったインフレ上昇を実証するデータは無く、したがって今回の改定によるインフレ上昇はないであろうとしている。
[5]発足当初は、バングラデシュ、インド、ミャンマー、スリランカ、タイ経済協力 (Bangladesh, India, Myanmar, Sri Lanka, Thailand Economic
Cooperation) であったが、 2004 年 8 月開催の初の BIMSTEC 首脳会議において「ベンガル湾多分野技術経済協力構想」へと名称変更
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